囚われのシンデレラ【完結】
「本当に……?」
いつもは切れ長の目が、大きく見開く。私はしっかりと頷いた。
「良かった……本当に、良かった」
「西園寺、さん……?」
西園寺さんが突然腰を折り膝に手をつくと、大きく深呼吸するようにそう言った。
「……ごめん。てっきり、もう俺のことは敬遠しているのかと思っていたから。自分が思っていた以上に緊張していたみたいだ。急に身体から力が抜けた」
「だ、大丈夫ですかっ?」
躊躇いがちにその肩に触れようとした時、その手を掴まれる。
「こんな風に緊張する自分も、衝動のままに動く自分も初めて知った。そんな自分に自分が一番混乱してる。でも、何より、こんなに何かに嬉しいと感じたのも初めてだ」
西園寺さんをうかがうようにかがんでいた私に、その顔が近付き呼吸が止まりそうになる。
そんな風に屈託なく笑う顔を見てしまったら。私はもうこの感情に抗えない。何故か、その時確信した。
「……本当に、ありがとう」
手を握りしめられたまま、見つめられて。ただ頭を横に振ることくらいしか出来なかった。
なのに――。
「――くしゅっ」
思わず出たのは、くしゃみだった。陽射しの届かない空の下、肩がぶるりと震えていた。
「衣装のまま連れ出したんだったな。気付かなくて悪かった」
西園寺さんが慌てて自分の着ているジャケットを脱ぐ。
「い、いえ……大丈夫ですから――」
「ダメだ。風邪をひいたら練習できなくなるぞ。これ、着て」
「あ、あのでも――」
あたふたとする私の剥き出しの肩に、西園寺さんが無理やり自分のジャケットを掛けた。西園寺さんの体温がまだ残っていて、なんだか恥ずかしい。
「いいから、着ていて」
「すみません。じゃあ、お借りします」
もう、何もかもが恥ずかしくて、ドキドキしておかしくなりそうだ。自分が自分でなくなったみたいに、身体中が落ち着かない。
「西園寺さんは、寒くないですか?」
仕立ての良さそうな綺麗な水色のシャツ姿が眩しいけれど、少し寒々しい。
「俺は大丈夫。何故かな。全然寒さを感じない」
そう言って笑う。
西園寺さんの笑った顔をもっと見たい。
もっとこの人のことを知りたい――。
既にそう思い始めている。
一度足を踏み入れたら、きっと引き返せない。転がるように落ちて行く。
19歳の初春、初めて恋を知った。