囚われのシンデレラ【完結】
部屋の扉を閉めてベッドに腰掛けバッグの中からスマホを取り出すと、登録したばかりのアドレスからメッセージを受信していた。ただそれだけで、胸が異様に騒ぎ出す。
【西園寺です。もう、帰宅しましたか?】
そのメッセージは1時間ほど前に受信していたものだった。
【進藤です。今、帰って来ました。今日は、ジャケットを貸してくださってありがとうございました。今度、お返しします】
このメール、いつ気付くかな――。
なんて思っていたら、手の中のスマホがブルブルと震え出し、飛び上がってしまった。
【今、電話しても構わない?】
電話――?
直接、声を聞く――考えただけで心拍数が上がる。
【はい、大丈夫です】
送信後、再び震えるスマホを、ドキドキとしながら耳に当てた。
「もしもし」
(西園寺です。遅くにごめん)
「い、いえっ!」
初めて聞く受話器越しの声が近い。
(風邪、ひかなかった?)
低くて落ち着いている、大人の声。
「私は大丈夫です。それより、西園寺さんは大丈夫ですか? 薄着のままで帰してしまって」
(俺も大丈夫。あの後すぐに家に帰ったから)
「それなら、良かった。でも、貸していただいたジャケット返さないとーー」
直に声が耳に触れるみたいで、くすぐったい。
(そうだな。今度会う時に返してくれればいい。いつなら、会える?)
今度、西園寺さんとまた会える――。
「4月から授業が始まるので、これまでのスケジュールと変わるんですけど、週末なら……あ、でも、西園寺さんも、お仕事始まるんですよね?」
確か、あのホテルで正式に働き出すのだと斎藤さんが言っていた。
(ああ。でも、最初は研修期間だから、週末でも大丈夫だ。そっちは、バイトや練習があるだろうから、時間は進藤さんの都合に合わせるよ)
「ありがとうございます」
西園寺さんと、次に会う約束をしている。その事実が、まだどこか信じられない。
(でも、なるべく早いと助かるかな)
このジャケット、すぐに必要なのかもしれない。
「分かりました。では、次の土曜日の夕方はどうですか?」
週末なら大学の授業はない。練習のあと、コンビニバイトまでの間に時間を作れる。
(大丈夫だよ。じゃあ、土曜日に。また連絡する)
「はい」
(おやすみ)
「おやすみなさい」
通話を終えた瞬間に、ベッドに倒れ込んだ。まだ早い鼓動は止んでいない。顔を横に向ければ、まさに、西園寺さんのジャケットが視界に入る。
おもむろにそれを手に取った。まるでそれが西園寺さんの一部みたいに感じて、触れるだけで緊張してしまう。私のものよりずっと大きい。
早く会いたい。
余計なことも難しい事情も、今は何も考えたくはない。ただ、西園寺さんと交わした約束だけを考えていたい。