囚われのシンデレラ【完結】
「本日は、急なお知らせにも関わらずお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」
大勢の人たちの前で、たくさんのフラッシュを当てられながら、ぴんとした姿勢と真っ直ぐな眼差しでそこにいる。
「……あの人、確か西園寺の後継者じゃない? センチュリーの次期社長とかなんとか、雑誌で見たことある」
同じロビー内にいた他の人も画面を見ながら話している。
凛として、堂々として。仕事に向かうときと変わらない西園寺さんの姿。一人そこに立つ西園寺さんを見ていると、胸が締め付けられてたまらない。
奇襲のようにするのだと言っていた。
誰にも妨害されないように自分の父親さえも欺いて、そしてその父親を告発しようとしている――。
辛くない訳がない。平気な訳がない。
それでも、葛藤も責任もその身体に受け止めてそこに立つ人を見ていれば、いやでも涙が込み上げて来る。
「――8年前から2年ほどに渡り、弊社において、不正な会計処理を行なっていることが内部調査により判明致しました――」
西園寺さんの話が終わらないうちにも、一斉にフラッシュの数が増える。その中でも少しもその視線は揺らがない。
「――投資による損失を、事実と異なる収入や利益で粉飾して虚偽の報告をしておりました」
「事実と異なる収入とは、一体なんなのですか」
「これだけではありませんが、そのほとんどを漆原社からの資金援助として、損失を隠していたのです」
その言葉に、会場内がざわつくのが画面を通しても分かる。
「西園寺常務のお話だと、粉飾していたというのはかなり前ことですよね。それを今更告発するのはなぜですか。なぜ、今なんですか」
「どうして、この場で記者会見をしているのは常務なんですか? 本来なら最高責任者が出て来るべきでは?」
矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「西園寺の人間でありながら、その不正に私が気付いたのが先月のことでした。事実を精査して発表するのにこの日まで要したということです。そして、この場に私が立っている理由は――」
西園寺さんが真っ直ぐに前を見据えた。
「この発表が私の意思によるものだからです」
さらに大きなざわめきが起こる。
「この不正を主導し認識していたのは、弊社社長とその周囲のごく限られた人間、そして漆原会長だけでした。私が発表しなければ、事実が闇に葬られたままになる。この手段しか、不正を正すことは出来ないと判断しました」
「その粉飾を主導していたのは社長、つまりあなたの父親だという。あなたは社長の許可もなく勝手に公表している、そういうことですか?」
「センチュリーだけではなく、漆原会長に対する告発でもある?」
「自分だけはその不正に関係ないというアピールのためにそこにいるんですか? 息子が父親を切り捨てた、クーデター劇なのでは?」
西園寺さんは権力のためにそこにいるのではない。多くの記者たちが、その意図を極端な方向へ進ませようと意地の悪い言い方をする。
無意識のうちに、握り締めていた自分の手のひらが白くなった。