囚われのシンデレラ【完結】
「私は社長の息子であるのと同時に、経営責任のある取締役の一人です。守るべきものは父親でも権力でもありません。この不正に何の責任もない、より良いホテルを作ろうと懸命に仕事をしている社員、センチュリーの未来を信じてくださっている株主、そして何より、我がホテルを愛し利用してくださっているお客様に誠実であるべきだと思っています」
その姿を見ていると涙が溢れる。
西園寺さんと付き合っていた頃、言ってくれた。
"あのホテルを、俺の手で世界一客に喜んでもらえるホテルにしたい"
二人で将来の夢を語り合って。
"お互い、頑張ろう"
って、そう言い合って。
あの時から何年も経って、私たちはここにいるんだね。
もう溢れて来る涙を拭きれない。
「間違いを正さないでいれば、その歪みは更に大きな歪みを生むことになる。誰にも妨害されずに過ちを世間に公表し正すためには……大切なものを守るためにはこの方法しかなかったと確信しております」
どれだけ涙が溢れても、その画面から視線をそらさずにいたい。恐ろしいほどの闇と権力と闘っているその姿を、目に焼き付けなければならない。
「この会見を契機に正式に第三者委員会が置かれ、すべてを明らかにしていくことになります。再発防止のためにも調査に真摯に対応し、皆様の信頼を取り戻せるよう、すべてをかけて取り組んで参ります。そして、すべて終えた後、西園寺の人間として責任を取り職を辞す所存です」
責任を取る――。
それがどういうことか。私は何も知らないでいた。
西園寺さんは、それだけの覚悟を持って何もかもを失う覚悟をしていた。
「罰を受けるべき人間がしかるべき処罰を受ける日まで。逃げも隠れもしない。私は責任を果たして行きます」
もう、ダメだった。
漏れる嗚咽を押し留められない。
西園寺さんは何があっても、絶対に自分を守ろうとする人ではなかった。何に対しても、誠実だった。
あなたは、誰が何と言おうと私にとって最高にかっこいい人です――。
画面の向こうで、数々の鋭い光を浴びながら頭を下げる姿を滲んだ目で見つめる。
そばにいて支えられないけれど、会見場から戻って来た西園寺さんを、「お疲れ様」と迎えることも出来ないけれど。
私、頑張るから。あなたがもう一度開いてくれた夢への道を、懸命に歩くから。そして、必ず叶えるから――。
「――モスクワ行き63便、最終搭乗のご案内です」
画面の中にいる最愛の人に触れたくて、最後に手を伸ばした。