囚われのシンデレラ【完結】
「ごめん。バイト、7時からだって聞いてたのに」
「いえ、自分のことなのに、すっかり忘れちゃって」
気付いたら、18時45分になっていた。慌てて店を出て、走っている。
「とにかく、急ごう」
幸いなことに、そのカフェからバイト先のコンビニまでは5分とかからない。大急ぎで走ったおかげで、何とか間に合うことができた。
「最後の最後に慌てさせてしまって、すみませんでした」
コンビニの前で、頭を下げる。
「いや、こっちも気遣えなくて悪かった」
「そんなことないです。それと、お借りしていたジャケット、ありがとうございました」
手にしていた紙袋を差し出しもう一度頭を下げると、西園寺さんの切羽詰まったような声が耳に届いた。
「……あのさ、今日は本当に楽しかった。また、会える?」
「は、はい! もちろんです!」
張り上げた声が、前のめり気味になる。
「……じゃあ、また電話する。バイト、頑張って」
どこかホッとしたような声が、心に染み渡って。
「今日は、ありがとうございました! じゃあ」
最高に名残惜しいけれど、私にはバイトがある。
身体を翻した後、どうしてももう一目、西園寺さんの姿を自分の中に残しておきたくて振り返った。そうしたら、まだ、西園寺さんはこちらを見ていてくれた。交わった視線に咄嗟に頭を下げると、私に手を振ってくれて。私も、たどたどしく手を振り返した。
今度こそコンビニへと向かう。
待ち合わせの前と、会った後。この3時間足らずで、既に自分自身が変わってしまったみたいに。西園寺さんによって、心がどんどん塗り替えられて行く。