囚われのシンデレラ【完結】
(バイトの予定を教えてほしい)
そう電話が来たのは、それからすぐのことだった。
大学の授業が始まってからは、平日3日と日曜日の週4日バイトをしている。
バイトのない日は、練習に専念する。
西園寺さんに会った土曜日はまだ春休み中だったけれど、いよいよ授業も始まる。
そうなれば、土曜日はオーケストラの練習が入ることが多いことからシフトを外していた。
(木曜日、進藤さんがバイトが終わる頃に会いに行くよ。そこから家まで車で送るから、その時間ドライブだと思って付き合って)
「それじゃ、あまりに申し訳ないです。そんなことさせられません。西園寺さんだって仕事があります」
西園寺さんの提案に、咄嗟に反論していた。
(俺も、進藤さんに練習の時間を削らせるようなことはしたくない。それでも会いたいと我儘を言っているのは俺の方なんだ)
「でもっ」
(それに、こっちも自分のことはちゃんと考えてる。だから、木曜日)
「え……?」
その意図が分からなくて、聞き返す。
(仕事だと言っても、今は研修期間だ。それに、木曜日なら、金曜日1日乗り切れば休みだろ? 俺の研修先からコンビニも近い。進藤さんが思うほど大変なことでもない。これが月曜日だと、先は長いなと思うかもしれないけどな)
「そうかもしれないですけど……」
(俺だって、自分の都合考えてる。お互いさまだから、何も気にする必要はない。分かった?)
そんな風に言われたら、もう何の反論も出来なかった。だって、私だって会いたくてたまらないのだから。
木曜日、西園寺さんは、バイトが終わる頃コンビニの前に車でやって来た。
「お疲れ様。乗って」
「すみません、じゃあ、失礼します」
うちの国産大衆車とは全然違う皮張りのシートに、身体を固くして座る。本当ならかなり座り心地がいいのかもしれないけれど、何せ、私は今、恐ろしいほどに緊張している。
この車を見れば、やっぱり西園寺さんはそういう家の人なのだと改めて思い知らされ、そして何より、この狭い密室に二人きりだ。
夜の車内は、それだけで雰囲気が変わる。
すれ違う車の明かりが、運転する西園寺さんの横顔を照らした。その横顔にも、またいちいちドキドキとする。思わず見惚れてしまっていた。
「今日もまた、早朝から練習してたんだろ?」
「は、はい、そうです」
前を見たままで、西園寺さんが私に声を掛ける。
「それで、この時間までバイトだもんな。疲れただろ? 寝てもいいよ」
「そんな、とんでもないです。それより、本当にいいんですか? うちは23区内でもない東京の奥地なんです。そこから、また自宅に戻るの大変ですよ。本当に途中まででいいので」
「夜の高速、結構好きなんだ。時々、一人でも走ってる。進藤さんの家が近過ぎたら、高速に乗れないだろ?」
そう言って、私に笑顔を向ける。
西園寺さんはいつもそうだ。こうやって、私に気を遣わせないようにする。結局私はその言葉に甘えてしまう。
「それに、俺なんて今は気楽なものだから。9時5時で研修受けて家に帰って。ここに来るまでに十分休んできたから。進藤さんに比べたら、体力有り余ってるさ」
だから、そんなラフな格好をしているのか。スーツでもなく、着心地の良さそうな服を着ていた。