囚われのシンデレラ【完結】
こんな風に西園寺さんと話していると、次第に緊張は取れて来て。結局、嬉しさの方が上回っている。
「体力なら、私も自信ありますよ!」
「……確かに、体力ありそう」
何故か西園寺さんが笑いを堪えている。
「何で、そこで笑うんですか?」
「いや、いつも走ってるイメージだから。一日中、そうやって走り回ってるのかなって、ちょっと想像してた」
こんな風に、何度か西園寺さんの笑顔を見るようになって思う。
黙っていると一見近付きづらそうに見える。だからこそ私に笑顔を向けてくれると、ドキドキして嬉しくなる。
「実は、友人たちにも『走る女』って言われてるんです。もっと可愛いあだ名がいいなと最初は思ったりもしたんですけど、今では結構気に入ってます。まさに"私"って感じで」
そう言って、私も笑う。
「うん。進藤さんらしい」
夜の高速は、穏やかな暗闇で私たちを包み込み、より距離を縮めてくれるみたいで。ただこの時間が終わらないようにと祈っていた。
なのに――。
私と来たら、心地よい振動とシートの柔らかさにうとうとして、しまいには熟睡してしまっていた。
「……進藤さん」
どこか遠くから聞こえて来るような、私を呼ぶ声。
「起きて」
「ん……」
あ、れ……西園寺さんの声――。
って、私!
「あ……っ!」
パチリと目を開くと、私を覗き込む視線とぶつかった。
「わ、私、寝て、ましたよね……」
「起こすのが躊躇われたくらい気持ち良さそうにね」
「すみません!!」
いつも5時に起きて、練習して授業を受けて、22時までバイトして。
帰りは混み合っている下り電車の中でも、立ちながら平気で居眠りしていた。それがこれだけ快適な場所なら熟睡してしまっても仕方ないとしても、西園寺さんの前だ。
一体、どんな顔で寝ていたんだ?
大切な時間だったのに、もう終わってしまった。
「乗せてもらった車で、もう、何と言ったらいいか……」
車に乗せてもらうのは、初めてなのに――。
合わせる顔がないとはこのことだ。
「それだけ進藤さんが毎日頑張ってるってことだろ? 運転している側としては、隣で眠れるくらい運転を信頼してくれたのかなと、嬉しいよ」
その気遣いに感謝しかない。
「それより、ここで合ってる? カーナビ通りには来たつもりだけど」
そう言われて辺りを見回す。間違いない。何の特徴もない四角い我が家だ。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
車から降りる時に、深々と頭を下げた。
「気をつけて帰ってくださいね」
「ありがとう。じゃあ、おやすみ」
そう言って、西園寺さんが軽く手を上げ、エンジンをかける。
「おやすみなさい」
その黒く光る車を見送った。