囚われのシンデレラ【完結】
初めてのことに、ただ固く目を閉じていた。
そのせいで、どこもかしこもガチガチに固まっている。
重ねられた唇は温かいのに、緊張と恐ろしく早い鼓動で上手く呼吸が出来なくて。懸命に息を止めていた。
「……息、して」
微かに離れただけの唇で、西園寺さんが囁く。初めて聞く、西園寺さんの甘く擦れた声で、また心拍数は駆け上がって行く。
「はい……」
長い指が私の両頬を包み込む。
恥ずかしくて、顔を上げられない。
こんなの、上手くできるはずない。
「緊張、してる?」
「す、すみませ――」
「謝ることなんてない」
そう言うとすぐに再び触れて来た唇は、そっと重ねられたものだった。労わるみたいに、包み込むみたいで。
ゆっくりとそれが離れて行くと、優しく私を抱きしめた。
「……俺も、かなり緊張してる。手だって汗まみれで、気付かれないようにって必死だった」
私を胸に抱きしめながらそんなことを言う。
胸に当てた耳に届く、西園寺さんの私と同じくらい早い鼓動に安心して行く。
「本当、ですか? そんな風には見えないです」
「そう見せているだけで、心の中の俺はみっともなさ過ぎて絶対に知られたくない」
「西園寺さんからは、想像できません……!」
初めてのガチガチのキスの後は、お互いの額を合わせて笑った。
バイオリンを手に持ったままだったことに気付いたのは、その後だった。