囚われのシンデレラ【完結】
「――今日は、本当にありがとうございました。誕生日プレゼント、凄く、嬉しかったです」
ホールを出た後食事をして、車で送ってもらった。家の前に着いて、改めて西園寺さんにお礼を言う。
「こちらこそ、時間を取ってくれてありがとう。むしろ、俺の方が演奏をプレゼントしてもらった。それと――」
これまで何度かあった車内でのやり取りとはどこか違う。車内に満ちる空気が、濃いものに感じる。それは、私に向けられる西園寺さんの眼差しが、これまでよりもっと親しみのこもったものに見えるからだろうか。
「俺の気持ち、受け入れてくれありがとう」
「そんな――」
慌てて頭を振る私の頭に手のひらが触れ、そのままそっと一つに束ねた髪を滑り落ちて行く。
「いろいろ、不安もあるかもしれない。でも、大切にするから」
薄暗い車内で、凛々しい唇が優しく言葉を紡ぐ。
「進藤さんは進藤さんらしく、そのままで俺といてほしい。決して、無理はしないでくれ」
そう言うと、ぽんぽんと頭を撫でた。そんな仕草の一つ一つに、私の胸は甘く疼いて、どうしようもない。
「はい」
「じゃあ、おやすみ」
「はい」
もう、『はい』しか言えていない。
まだどこか夢見心地のままで、車を降りた。窓ガラスが開き、運転席の方から西園寺さんが『ゆっくり休んで』と声を掛けてくれる。
「気を付けて、帰ってくださいね」
その私の言葉に頷くと、黒い車はゆっくりと動き出した。
それを見送りながら無意識のうちに胸に手を当てていた。
ずっとドキドキしっばなしだったんだ――。
「――予定があるって、西園寺さんとだったんだな」
突然暗闇から聞こえて来た声の方へと顔を向けると、人影が目に入る。それは柊ちゃんだった。