囚われのシンデレラ【完結】

「こんな時間に、何してるの……?」

一瞬にして、夢から現実へと戻る。

「部屋にいたら車が停まる音が聞こえたんだ。あの車がここに来るの、何度目だ」

明らかに責める口調に、俯いてしまう。

「俺、あの人はやめろって言ったよな。誕生日なんかに会って、もうあの男のものにでもなったのか? 答えろよ……っ!」
「やめて――っ」

強い力で腕を掴まれ、驚きのあまり力の限りでその手を振り払った。

「どうしてそこまで口出しして来るの? おかしいよ!」
「俺は――」

何故か、柊ちゃんが混乱しているような表情をして、私を見つめて来る。

「……ただ、おまえのことが心配なんだよ。俺にとっておまえは……家族、みたいなものだから」

柊ちゃんが私のことを心配してくれていることは、よく分かっている。
いつだって当たり前のように、いつも近くにいた人だ。
大学に入るまでは毎日顔を合せていた。家でも学校でも。
ただの友人以上に考えてくれている。それは私も同じだ。でも――。

「あずさは、何も知らないから。男のことなんて、何も知らないだろ。おまえはこれまで、バイオリンのことしか頭になかったんだから」
「柊ちゃん……」

その目が、どうしてだか切なげに歪められた。

「男って、平気で女を傷付けたりするんだ。西園寺さんは、黙っていたって女の方から寄って来るような男なんだよ。
おまえからすれば、あの人は大人で、すげー魅力的に見えるんだろう。今は、極上の男にちょっと構われて、優しくされて夢見心地かもしれないけどな、やることやったらあっという間に捨てられる――」

「勝手なこと言わないで!」

柊ちゃんの言葉に、もう黙っていられなかった。

「西園寺さんは、そんな人じゃないよ。侮辱しないで」
「あずさ……」

確かに、凄い家の人でお金持ちで、違う世界にいるのかもしれない。
でも、西園寺さんと一緒にいる時には、そんなことを忘れていられる。
西園寺さんがくれる言葉は、その人柄を表すみたいにいつも真っ直ぐだ。
私にとっては一人の男の人、"西園寺佳孝さん"でしかない。

「たった二か月程度一緒にいたからって、どうしてそう言い切れる……?」
「私がそう感じるから。それだけで十分だよ。それに――」

柊ちゃんの目を真っ直ぐに見つめて言った。

「もし、柊ちゃんの言うことが本当だったとしても、私は後悔しないよ」
「おまえ、自分が何を言ってるのか分かってるのか……?」

まるで知らない人を見ているかのように私を見る。

「いつか私のことなんて見向きもしなくなる時が来たとしても、それで傷付いても絶対に後悔なんてしない。だって、この気持ちは失くせないから。自分の気持ちを自分の意思でなかったことになんてできない。それが人を好きになるってことでしょ?」

コントロール出来ない。どうしようもできない。

「だからごめん。心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫だから。おやすみ」

何も言葉を返して来ない柊ちゃんの横を通り過ぎ、そこから立ち去る。
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