囚われのシンデレラ【完結】
3 見つけた扉の向こうにあるもの
斎藤さんと食事をすることになったのは、8月も終わりに近づいた頃だった。
ここ数日、高温注意報が出続けている。案内されたレストランは、立っているだけでじとじとじりじりとする屋外とは別世界のようだった。
「こっち、こっち!」
西園寺さんと共に店内に入ると、奥の方から呼びかける声がした。
「ああ、もう先に来ているみたいだ。行こう」
「はい」
少し緊張する。
「あずさちゃん。忙しいのに、今日は来てくれてありがとう」
私と西園寺さんで並んで座る向かいに、斎藤さんが腰掛けた。
「いえ、とんでもないです」
にこやかに頭を下げる斎藤さんに、慌てて私も頭を下げる。
3月に会った時と変わりなく、優しげな目元が印象的な人だ。西園寺さんとはタイプが違う、少し中性的な人。柔らかそうな髪が、よりその顔立ちを綺麗なものにしていた。こうして二人を交互に見つめると、そのオーラに怖気付きそうになる。
「いや、本当にあずさちゃんに会いたかったんだ。やっぱり想像通りだった」
「どんな想像、ですか……?」
恐る恐るたずねてみる。
「面白味もなくいつも変わり映えしない表情でいた佳孝が、君の隣にいる時はどんな顔でいるのかなって、それを見てみたくてさ。そうしたらもう、『誰こいつ』ってくらいデレデレしてる。想像通り」
「デレデレって、なんだよ。そんなだらしのない表情をしているつもりはない。第一、そんなみっともない顔、あずさに見せられるわけがない」
むっとしている西園寺さんをまるで気にせず、斎藤さんはにこにことしたままだ。
「それだよ。おまえ、自分の言葉が相当デレていることにも気付かず大真面目な顔で言ってしまうくらい、好き好き光線だしまくってんの」
す、好き好き光線……?
私の方が恥ずかしくなって、思わず俯いてしまう。
「おかしなことを言うな」
「あずさちゃんに教えてあげるよ。どうして二人の関係に気付いたのか」
「お、おいっ」
西園寺さんの制止も無視して、私に笑顔を向けた。
「まず、4月くらいから、異常にスマホを気にするようになった。とにかく早く一人になろうとしてて、挙動があやしい。スマホの画面見ながらニヤニヤしてる。極め付けは、仕事してない時の佳孝が、常に心ここにあらず!こんなの、誰かと付き合い始めたとしか思えないよね? それで問い詰めたんだ」
「……そんなに人のことを見てるなよ。これだから、いつも近くにいるやつは厄介だ」
西園寺さんが決まり悪そうに、口元に手を当てていた。そんな困り果てているような表情を見ることはなかなかない。それが楽しくて、つい笑ってしまった。