ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
浅倉 千隼のこういうところが大好き。
下げといてから上げてくるっていうのかな。
だからこそ嬉しさが倍になる。
「じゃあ、これからもずっと繋ぐんだよ千隼くん」
ここは返事してくれないこと。
いつの間にか、少しずつ、わかってきた。
未来の話や未来の約束をしようとすると、必ず黙ってしまう。
「俺、増悪がない世界に行きたいんだ」
そう言った千隼くんは、いつも愛用しているマフラーに口元を埋めた。
初めてかもしれない。
彼が自分の願いのようなものを話してくれたのは。
「ぞうあく…?」
そう、と。
だんだん暗くなってゆく空を見上げた白い吐息が、ほわっと上がった。
「どんなことも、誰のことも…恨まなくていいような」
そして私へと移される。
「そこはきっと、ふたりだけの世界。…俺と李衣だけの世界だから」
どんな場所なんだろう。
増悪がなくて、どんなことも恨む必要がない世界というのは。
千隼くん、君はなにを恨んでしまうことに怯えているの…?
「行こうよ千隼くんっ!きっとそこはすごく素敵な世界だよ…!」
「…うん。行きたい」
「いこうっ」