ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
18時までには家に帰ってきなさいって言われてたから、時計を気にし始めてたんだ。
だけど千隼くんは、あの公園に19時ギリギリまで一緒にいてくれた。
そこからまた道を抜けてふたりだけの時間を過ごしたから、確実にあの日も帰宅したのは19時半近くだったはず。
「普通じゃないの」
「…え…?」
「この子は、普通じゃないのよ」
普通……じゃ、ない?
プリクラを見て笑っていたのは?
パンケーキを食べて“おいしい”って言っていたのは?
手を繋いだとき、照れたようにはにかんでいたのは?
「ふつう、です、」
気づけば彼の隣に立っていた。
ぎゅうっと離れないように手を握って、こうしていれば怖くないねって。
「千隼くんは…っ、普通の男の子です…!!」
その瞬間、駅前のバス停に大きなライトを放ちながら向かってきたバス。
私たち3人の姿を簡単に暴いてしまう光。
「行くわよ千隼」
「…、ごめん李衣、」
驚きと一緒に手を離してしまったのは私だった。
謝る千隼くんに何も言えないまま、光に照らされた壊れそうな女性をしっかりと見つめていたのも私。
コインランドリー、病院。
そこにいた女性が、私と彼を引き剥がすようにして離れてゆく───。