ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
『わっ!見てこれっ、カブトムシ捕まえちゃった!てか今日って8月7日!7がつくラッキーセブンっ!』
『えっ!?ぼくそれがいい!!』
『バッタじゃないから逃がしまーすっ!』
『ちょっとおねえちゃんっ!!』
『ふふっ、うそうそ、あげるよ。バッタは捕まえられそうにないからカブトムシで許してくれる?』
ラッキーセブン…。
俺にとっては最悪な日だった。
でも本当にそうかもしれないって。
木陰に隠れてその声を聞いているだけで、強ばった表情も自然とほぐれていく。
『………、』
なぜか、俺は、泣いていた。
信じられないことばかりが襲ってきた恐怖も確かにあった。
でも、この涙はちがう。
それ以上に温かいんだ、あの世界を見ているだけで心が温かいから。
そんな涙を俺は静かに流していた。
『やったー!ありがとうおねえちゃん!』
『どういたしましてっ!お家は?ひとりで帰れる?』
『うんっ!すぐそこだから!』
『ならお家まで送ってく!』
なんでもいい。
あの存在の隣に居られるなら、俺はそこにいる子供に生まれ変わったっていい。
あの笑顔を向けられるのなら、俺は彼女に捕まえられたカブトムシになったっていい。
ゴキブリでも蝶々でも、なんだっていい。
それくらい、
俺の隣にいてほしいと、どうしようもなく思った───。