ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




『わっ!見てこれっ、カブトムシ捕まえちゃった!てか今日って8月7日!7がつくラッキーセブンっ!』


『えっ!?ぼくそれがいい!!』


『バッタじゃないから逃がしまーすっ!』


『ちょっとおねえちゃんっ!!』


『ふふっ、うそうそ、あげるよ。バッタは捕まえられそうにないからカブトムシで許してくれる?』



ラッキーセブン…。

俺にとっては最悪な日だった。


でも本当にそうかもしれないって。

木陰に隠れてその声を聞いているだけで、強ばった表情も自然とほぐれていく。



『………、』



なぜか、俺は、泣いていた。

信じられないことばかりが襲ってきた恐怖も確かにあった。


でも、この涙はちがう。


それ以上に温かいんだ、あの世界を見ているだけで心が温かいから。

そんな涙を俺は静かに流していた。



『やったー!ありがとうおねえちゃん!』


『どういたしましてっ!お家は?ひとりで帰れる?』


『うんっ!すぐそこだから!』


『ならお家まで送ってく!』



なんでもいい。


あの存在の隣に居られるなら、俺はそこにいる子供に生まれ変わったっていい。

あの笑顔を向けられるのなら、俺は彼女に捕まえられたカブトムシになったっていい。


ゴキブリでも蝶々でも、なんだっていい。



それくらい、

俺の隣にいてほしいと、どうしようもなく思った───。



< 128 / 364 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop