ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
帰ってきたんだ、現実に。
信じられないくらい幸せすぎる夢が覚めた。
ただそれだけのことなんだよね。
「……ぅ…っ、っ、」
今までなら隠さず声を上げて泣いていた。
恒例行事のようにクラスメイトに笑われて、そんなものが私にとっての失恋だと思ってた。
「…っ、ぅぅ……っ、ぁぁぁ…っ」
だけどあんなのウソ、偽物。
本物はこんなにも苦しくて、泣くことすらうまくできないなんて。
「…ここはカラオケだわ」
たった今にも笑っていたはずの男が、ボソッと落とした。
「園田、教室からこいつの荷物もってきて」
「わかったけど…」
軽く叩かれていたはずの頭は、今度はわしゃわしゃっと撫でられる。
「したら、立て青石」
「むりぃ…っ、」
「むりじゃねえ。ほい立った」
「やだぁ…っ、」
「やだじゃねえ。そしたら歩け、青石」
ガシャン、ガシャン。
まるで起動したばかりのロボットみたいに、私の身体は北條くんによって操作された。
「よし、じゃあ歌いまくれ青石」
「……声でないぃ」
「バーカ、そのためのマイクだろ。なあ園田」
「そうそう。ここは北條の奢りなんだから」
「は!?んなこと言ってねーよ!」