ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
状況が読めないままマイクを手にする私は、まるでされるがままのマスコット。
とうとう諦めたように真面目な顔に戻した楓花が探るように聞いてきた。
「なにがあったのよ李衣。私らだけには話してくれるんじゃないかって、ごめんカラオケは北條と口合わせしてた建前なんだ」
そうなんだろうなって、思ってた。
こうして誰にも邪魔されない場所を作ってくれたんだろうなって。
カラオケは防音だからおもいっきり泣けるし、歌いたくなったら歌えばいい。
「浅倉も今日、早退したんだよ?」
「え…、」
「休み時間が終わったあとの3限からね。みんなびっくりしてた。もう学年中があんたらのウワサで持ちきり」
休み時間が終わったあとって…。
私が別れを告げられたのは休み時間だ。
どうして千隼くんが、いや浅倉くんが早退する必要があるの?
だって私と別れることができてスッキリしているはずなのに。
喜んでいるはずなのに。
「葛西さんが…いいんだって…、」
「え?」
「浅倉くんは最初から…、葛西さんがよかったんだって…っ」
私なんか王様の暇つぶしに、まんまと引っかかった庶民のようなものだ。
庶民が貴族になれるわけがないのに、その庶民は騙されていることを知らないまま浮かれて。
結果、現実を見せられて突き落とされた。