ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
どこか含みある眼差しで、楓花は確かめるように目を向けてきた。
「そんなの浅倉くんが聞いてるわけ───、……、」
「ほーら、心当たりありそう」
イヤホン、なにも聴いてないって。
周りの音は直接聞きたくないけど聞こえないのは寂しくて、だから装着しつつ聞こえてくるのが落ち着くって。
そして、私の話はすごく楽しいんだって。
「うぅ…っ、うだう…っ、歌っ、うだうぅぅ」
「おー、ぜんぶ濁点はやめろよ青石」
「歌いな歌いな。今日は私たちがとことん付き合うから!」
再びテレビは付けられて、タッチパネルが渡される。
ランダムであるだけ送信するとさっそく音楽が流れ始めて、私はマイクを手にした。
「てかさあ、あんたらにワケわからないまま使われる葛西さんがいちばん不憫(ふびん)じゃない?」
「明日にでも謝っとくわ。俺が」
「もしかしてそれ、狙ってる?」
「…悪いけど俺、ずっと気になってるやついるから」
「えっ、そーなの!?あんたも分かりやすいようで謎だらけだからびっくりなんだけど!で、誰なのよ北條」
「……何事にも一生懸命なやつ」
「まって、李衣が音痴すぎて大事なとこ聞こえなかった…!」
浅倉くん。
ううん、千隼くん。
私はどんな千隼くんを見たって、嫌いになんかなれないんだよ───…。