ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「っ、お母さん!これから病院いってくる!!!」
「病院…?なに言ってんのよ…って、ちょっと李衣!」
玄関へと一直線に向かう娘を見て、慌ててコンロの火を止めたお母さん。
「こんな時間に行ってどーするのよ!病院ってどこの病院なの!」
「叔父さんのとこ…っ!」
「もうバカなこと言ってないで、ほらご飯できるわよ!」
私、千隼くんにたくさん最低なことを言った。
転んだ彼に対して、「転んだことがない人間なんかいない」って。
私のことを知りたいと言ってくれた彼に対して、「時間なんかいっぱいある」って。
理解していないうえで根拠のない言葉ばかりを言って、確信のない約束ばかりをして。
「待ちなさいって李衣!」
「───あたしが送ってくわ。お母さん車借りるね」
「え、芽衣?」
さっそく車の鍵を手にして、同じように玄関へ向かってきたのはお姉ちゃんだった。
「気をつけなさいよ…?あなたしばらくのあいだペーパードライバーだったでしょ?」
「こっちに戻ってきてからしょっちゅう運転してるから平気。ほら、すぐ行くから先に乗ってて李衣」
「うん…!ありがとうお姉ちゃん…!」