ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「浅倉、ちょっと話がある。来い」
お昼休み。
付き合う前のときのように、千隼くんは自分の席に座って静かにお弁当を広げていた。
そんな場所にて、仁王立ちをするみたく見下ろした北條くん。
「おい浅倉!」
「……なに」
彼は鬱陶しそうにイヤホンを外した。
今はもう本当に音楽を聴いているのかもしれない。
「話がある。弁当持ってきていいからさ、来てくんね?」
「俺はない」
「いや俺があるんだよ」
「だから俺はないんだって」
「……おまえ、協調性って知ってるか?」
「北條に対しては知らない」
「……」
シャットダウンさせるかのように、イヤホンを耳に戻した千隼くん。
どの角度から見ても痛々しい包帯は、誰もが心配しているのに言葉にはできなかった。
「李衣、食べないの…?」
「……食べる」
「ん、ねえこれ見て?知り合いの家のミニチュアダックス。赤ちゃんが生まれたんだって」
「…かわいいね、」
聞きたいのに聞けない、心配しているのに伝わらない。
今日の夜も快適な睡眠は取れそうにない。
余計スマホで朝方まで調べてしまって、寝不足確定だ。