ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「ちょ、李衣…?どうしたの…?」
「青石…?」
楓花と北條くんの声だけが、かろうじて耳に入った。
ぐわんぐわんと頭が揺れては血が逆流してきそうな感覚。
なにをしているの、なにを言ってしまったの。
いつも心配してくれるクラスメイトに“うるさい”だなんて、ひどいよ私。
だとしてもあのまま聞こえていないふりをしつづけるなんて無理だった。
「っ…、」
叔父さん、強くないんだよ。
黙っていられるほど私は強くない。
わからないことだらけだよ。
たぶんだけど、私の行動はとても突発的で単発的で、後先を考えられてはいないんだろう。
「ふ、ふざけんな……っ」
斜めうしろ。
言い切ってしまった私を、驚きながらも怪訝(けげん)そうに見つめてくる。
「ふざけんな…っ、ふざけんなっ、」
視界がぐらっと滲んでゆく。
ポタリポタリと、床が染みていくほどに。
「きれいなわけないじゃん…、病気なんだから…っ」
脳腫瘍だって心臓病だって、辛くないわけがない、綺麗なわけがない。
大学病院のなかを少し歩くだけで、そうじゃないって分かる。
まず院内に入る前に目にする案内図、あれ見たことある?
呼吸器、脳神経、肝臓、血液。
もっと、もっとだよ。
内科だけでも20種類近くあって、今度は同じくらい外科もある。