ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
それまで親族だった叔父が、たくさんの命を救う代わりに見送ってもきた医者に変わって。
命を甘く見るな、病気を甘く考えるな、今のお前じゃかえって彼を傷つけるだけだ───そんなふうに叱られたみたいだった。
「───李衣。」
ぶわっと、瞳いっぱいに浮かぶ涙。
ふらりふらりと最終的にたどり着いたドアの前、先回りして立っていた男の子がひとり。
久しぶりに、大好きだった声で呼んでくる。
「イヤホンっ、してたから…っ」
「うん」
振られた日以来だった。
こうして言葉を交わすのは。
イヤホンしてたから、あの場面で怒ったとしてもバレないと思った、聞こえていないと思った。
なんて言い訳は苦しすぎる。
「…でも俺がなにも聴いてないの知ってるでしょ」
やっぱりそうだったんだ…と、変わっていないことが嬉しくもあって。
それと同じくらい、あんなにもひどい言葉を聞かせてしまったことが胸を痛いほどに突いてくる。
「お弁当、あれ勿体なかったよ」
「……うん」
「北條が30秒ルールとか言ってどうにかしようとしてた」
「……うん」