ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
これぐらいしなきゃダメなんだ。
お姉ちゃんが言っていたように、私は確かに1度も追いかけてない。
嫌だ、離れない、どんな場所でも千隼くんを追いかけるよ───回した腕に気持ちぜんぶを乗っけた。
するとそんなものを待っていたかのように、強く強く応えてくれるぬくもり。
「……怖くなった、…ぜんぶに」
「…うん、」
「俺は弱いから…、李衣に離れられたら、たぶん生きていけないんだよ」
離れないよ、ずっと一緒にいるよ───、
今も胸のなかにある感情は言葉にできない。
それは言葉にした途端、すごく軽いものに変わってしまうんじゃないかって思ったから。
「どうせいつか離れられるのなら……まだ今のほうが辛くないかなって、」
だからあのとき、嘘を言ってまでも、嫌われてまでも、最低だと思われてまでも。
自分を犠牲にして、私から離れようとしたんだと。
「けど、結局は寂しくて…ありえないくらい辛かった」
抱きしめられる力強さのなかにある、隠しきれない確かな震え。
そこからは「助けて」と、聞こえた。
「昨日の帰り道、歩道橋の階段から落ちたんだ」
ゆっくりと身体は離れた。
うつむく千隼くんは、大きな後悔が見える雰囲気をまといながら続ける。