ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
だから千隼くん、
私たちはすごくラッキーだったんだよ。
みんなはこういうものを「当たり前」だと思ってしまっているから、本当の幸せを見逃しちゃってる。
だけど私たちは「当たり前じゃない」と気づけているから、いちばんの幸せにも気づくことができる。
「李衣、そろそろ電車乗らないと暗くなってくる」
「千隼くんのお母さんがお迎えに来るまで…ちょっと涼みたくて、」
「…ん」
少し前に包帯は取れて、あの心配になる姿では無くなった千隼くん。
駅前が私たちの解散場所。
けれど私はギリギリまで一緒にいたいから、こうして何かと理由をつけて彼の手を握り、ロータリーのベンチに座る。
「李衣は体育祭、サッカーだっけ」
「うん」
男子は3人4脚と、借りるのは人限定という、ちょっと変わった“借り人競争”なるもの。
女子はサッカーとバレーボール。
「……ふっ、」
「あ!去年の授業でのこと思い出してたでしょっ」
「ははっ、顔面は気をつけて」
「もーっ!」
その笑顔を見るだけで幸せすぎて泣きたくなるなんて、知らなかった───。