ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「千隼くん…?」
残り100メートル。
ちょうどトラックの半分まで来たとき、足取りが止まった。
「李衣、…もし俺が転んだら、一緒に笑ってくれる?」
「…え?」
振り向いた彼は、泣きそうになりながらも眉を寄せていて。
それが抱えた気持ちを表している何よりの表情だと思った。
不安、恐怖、弱さ、それでも彼の夢や憧れと、私への確かな想いと。
ぜんぶ、ぜんぶが詰まった浅倉 千隼は、やっぱり私にとっていちばんの王子様。
《なんと4番っ、借り人である女子生徒をお姫様抱っこで運ぶという大胆すぎる行動に出ました!!
うるさいぞ女子たち!!羨ましいのは分かるが落ち着け女子たち…!!》
千隼くん、大好きだよ、千隼くん。
大好きな匂い、大好きな腕のなか、ぎゅっと身体を寄せてみると、同じように返ってくる。
それ以上の言葉が見当たらないくらいに、泣きたくなって幸せで、言葉にできないってこういうことなんだろうなって。
《1着ゴールは4番!!次に3番、6番、5番、1番とゴール!残念ながら2番は借り人を探し出せず放浪のまま失格!!
以上っ、男子対抗借り人競争でした…!!》
私は初めて、そんな王子様にとってのお姫様になれたような気がした。
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