ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「だいすき、千隼くん。千隼くんだけが……だいすき」
涙は、出なくて。
不思議と涙は出なくて、とても穏やかな気持ちのなかで。
伝えたい言葉はね、君に伝えたい言葉は、今はこれだけなんだ。
大好き───、
たったの、これだけ。
「…李衣、」
甘く囁きながら覗きこんできて、そっと、お互いの髪がふわっと触れる。
ぱちっと目が合って、じっと見つめてみると、彼はそれ以上の眼差しで微笑んだ。
気づけば回っていた手が引き寄せてくる。
「俺も李衣だけが大好きだ」
想像していたよりずっとずっと柔らかくて。
想像できなかった気持ちが、全身から愛しさになって込み上げてきて。
ふたりきり、ふたりだけ、このふたりだけの教室で。
ここには怖いものなど何もないんだと、本気で思ってしまう。
「───…っ」
ゆっくり、優しく重ねられてから、ようやく溢れては止まらなかった。
幸せすぎて幸せすぎて、逆に怖くなってしまうくらい、それはもう幸せだったから。
ファーストキスは、どちらのものとは言えない涙の味がした。
「千隼くん、…私がぜったい、千隼くんが行きたい世界に連れていく」
「…うん」
神様、どうか私に教えてください。
彼が夢みる、ふたりだけの世界は、一体どこにあるのですか───。