ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「千隼くん、今日もこのあとリハビリに行くの…?」
「いや、今日はとくに。録画した映画観るくらいかな」
「じゃあ今日はお家でゆっくりだね」
左足を引きずるようにしがらも松葉杖を器用に動かして、空いているほうの手で私と繋いでくれて。
一緒に昇降口を目指すと、校門前に車が止まっているところが見える。
今までは最寄り駅まで一緒に帰れたけれど、今日からは学校を出るまでが私たちの帰り道となった。
「千隼くん、また明日ねっ!」
「また明日。すぐメールする。…夜は電話できる?」
「うんっ」
“バイバイ”は寂しいから、“またね”って言おう───いつの間にか2人のあいだに作られたルール。
そして最近は千隼くんから電話のお誘いがあることから、幸せな夜を過ごしていた。
運転席に座る女性に軽く頭を下げて、お互いが見えなくなるまで手を振りつづける。
「───叔父さん」
「…李衣。学校帰りか」
「うん。叔父さんと話したくて」
いつ以来だったか。
こうして顔を会わせるのは。
避けていたわけじゃない、ただ、どんな顔をしたらいいのか分からなかった。