ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「…わからない…?」
「ああ、わからないから言えないんだ。進行速度や範囲、症状の程度、人それぞれとしか言いようがないんだよ。この病気は。
余計に彼の年齢で発症した場合は比較的ゆっくり進行していくと言われてはいるが、…そうじゃないパターンも俺は知ってる」
情けなく思えてしまった。
医者のくせにどうしてそれも分からないのと、責めたくなった。
病気そのものも治せない、治すための薬も作れない、詳しいことも分からない。
ただ様子を見て、その都度サポートするだけ。
そんなのは医者じゃなくたってできる。
「俺がこの病院に来たばかりの頃、同期の男がいたんだ」
すると叔父は、声を落として話し始めた。
「当時そいつはSMAの患者を初めて担当したんだが、ゆっくり進行していくからって油断していたんだろうな。
合併症を引き起こしたことに手遅れになってから気づいて……その患者は早くに亡くなってしまった」
叔父さんと同期だった医者はその出来事がトラウマになって、それから小さな病院へと移動になったらしい。
いまの会話だけで、合併症の怖さを知った。
「李衣、俺はたくさんの難病患者を見てきたぶん、それと同じくらい支える側の人間の涙だって見てきた。
だから俺はお前に、ああ言ったんだ」