ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「ありがとう、お姉ちゃん」
もし今の私を見て、それまでの私とは違うと感じてくれていたとしたら、紛れもなく彼と出会ったからだ。
何よりも強い男の子をいちばん近くで目にして、私自身にも変化があるということ。
「李衣!」
今度こそ助手席を出ようとすると、また止められる。
振り返った先に、真剣な目をしながらも意地悪に微笑む姉がいた。
「かわいいよ、最近のあんた。今日もバッチリ決まってるわ」
「───うんっ!」
この大学病院がデート場所。
ここに、大好きな男の子がいる。
「李衣、」
院内のリハビリテーション室へ向かって、ガラス窓越しに見守る。
邪魔をしたくないのと、頑張っている千隼くんを見るだけで覚悟が強くなるため、こうして私は黙って見つめていることが多い。
そうすると彼は柔らかい顔で向かってきてくれる。
「千隼くんっ、お腹すいてない?」
“お疲れさま”は、ちがう気がする。
彼にとってリハビリは、私たちが外を歩くために靴を履くようなもの。
私はいつもそう思っている。
「ちょうど12時近いし、なにか食べる?」
「えっと、あの、実はお弁当つくってきてっ、一緒に食べたいなって…!」
「え、……食べたい」