ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
照れたように瞳を伏せた千隼くん。
今では慣れたように松葉杖を使って、主治医である私の叔父に休憩を合図してリハビリテーション室を出ようとすると。
「浅倉くん、ちょっと待った」と、叔父さんがストップをかけた。
「リハビリで疲れているだろう?この休憩中だけ車椅子を用意するよ」
「え、でも先生はいつも歩けって言うじゃないですか」
「相手は李衣だぞ。このあとのリハビリまでに体力が無くなったら、それこそ主治医として君のことが心配だ」
「叔父さんっ!まるで私が千隼くんを無理させる体力オバケみたいな言い方っ」
「そんなつもりはないが」と、いつもの調子で付け足した叔父。
けれどスッと移った視線から感じる医者としての顔。
「千隼くん千隼くん!スペシャル李衣号、ちょうど空席だよっ」
「ふっ、なにそれ」
「お客さん、今ならお安くしておきますよ~?」
いつの間にか用意されていた車椅子へ、優しい顔をした千隼くんは松葉杖を主治医に預けて座った。
松葉杖の使い方はスムーズになっているが、私にはわかる。
左股関節から左足、少しずつ右足にまで影響してきていることを。