ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「ではスペシャル李衣号、しゅっぱーーつ!」
「運転手さん、安全運転でお願いしますよ」
「もっちろん!」
車椅子の押し方を手早く教わって、私たちはとある場所へと向かう。
すれ違う看護師さんたちに挨拶を返して、エレベーターで9階へ上がって。
「とうちゃーくっ」
広々とした外庭へ出ると、暖かな日差しがちょうど射していた。
四季折々の草花や木々に囲まれた遊歩道、ほっと一休みできるベンチ、そこは患者さんたちの交流の場でもあって。
そんな今日は、冬晴れの空が広がっている最高のピクニック日和。
「大丈夫…?私に掴まっていいから…!」
「ん、平気」
車椅子から降りて、ベンチに座る。
松葉杖が無いぶん不安に思う私とは反対に、彼はうまく乗り移った。
「これ…ぜんぶひとりで作ったの?」
「うん!あっでも、本のとおりに作れてるか微妙だし、千隼くんのお母さんよりは全然だけど…」
「ありがとう李衣。…俺、なんかこういうの憧れてた」
喜びを噛み締めるように、パカッと開けたお弁当をしばらくのあいだ手を付けようとはせず、彼は見つめていた。
普通であればその言葉は夢に溢れて嬉しいもののはずなのに、とても切なく聞こえてしまう。