ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




「ではスペシャル李衣号、しゅっぱーーつ!」


「運転手さん、安全運転でお願いしますよ」


「もっちろん!」



車椅子の押し方を手早く教わって、私たちはとある場所へと向かう。

すれ違う看護師さんたちに挨拶を返して、エレベーターで9階へ上がって。



「とうちゃーくっ」



広々とした外庭へ出ると、暖かな日差しがちょうど射していた。

四季折々の草花や木々に囲まれた遊歩道、ほっと一休みできるベンチ、そこは患者さんたちの交流の場でもあって。


そんな今日は、冬晴れの空が広がっている最高のピクニック日和。



「大丈夫…?私に掴まっていいから…!」


「ん、平気」



車椅子から降りて、ベンチに座る。

松葉杖が無いぶん不安に思う私とは反対に、彼はうまく乗り移った。



「これ…ぜんぶひとりで作ったの?」


「うん!あっでも、本のとおりに作れてるか微妙だし、千隼くんのお母さんよりは全然だけど…」


「ありがとう李衣。…俺、なんかこういうの憧れてた」



喜びを噛み締めるように、パカッと開けたお弁当をしばらくのあいだ手を付けようとはせず、彼は見つめていた。


普通であればその言葉は夢に溢れて嬉しいもののはずなのに、とても切なく聞こえてしまう。



< 227 / 364 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop