ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
大人しい男の子だったらしい。
好き嫌いもあまりなく、否定的なことも言わず、言われたことはきちんとやる子。
だから逆に「どうしたい?」なんて聞かれると、首を傾けてしまうような子供だったらしい。
「そんな子だからこそ黙って聞き入れてくれるだろうって、私は母親としてズルいことをしたわ」
「…確かに1度、私は千隼くんから別れて欲しいって言われてます」
「…傷つくと思った。あなたと楽しい思い出が増えていくことで、いずれ千隼だけじゃなく……青石さん、あなたのことも傷つけてしまうって」
間違ってはいないんだろう。
私たちは幸せを感じるたびに、その先に待っている苦しみが必ずセットで付いては積み重なっていくから。
大人から見たとき、私たちの関係はとても“今だけのもの”にしか見えていないのかもしれない。
一時的、今だけ、長くは続かない、いずれ飽きる───。
私たちの周りにいる大人はいつだって、そんな不安が募る目をしていた。
「だけどあの子は、“嫌だ別れたくない”って、“俺は李衣を信じたい”って言ってきたの。……初めて私にわがままを言ったんです」
それを聞いて嬉しくないわけがない。
いつだろうか。
私たちが1度別れて、でもやっぱり離れられなくて、そのあとかな…。