ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「駅で青石さんと3人で会ったときも、そういえば千隼はわがままを言っていたって…今になって気づいたわ」
もう高校生だから寄り道がしたい、普通でいたい、と。
千隼くんの思いは私もしっかりと覚えていた。
「あの、“普通”ってなんですか…?」
「え…?」
あのとき、何度も何度も息子に対して『普通じゃない』と言っていたこと。
私はそれがずっと引っかかっていた。
どこが普通じゃないの?って。
そもそも普通ってなに?って。
「もし、千隼くんに言っていたことが“病気だから普通じゃない”って意味だとしたら…私は、怒りたいです、怒ります」
お母さんの手は、震えていた。
私が渡したペットボトルのラベルにポタリポタリと落ちてゆく涙。
「“普通”がどういうものか、私だって分かりません。そんなの言ったら私も“普通”じゃないかもしれないです。
でも…千隼くんは私と何も変わらないです。夕陽を見て綺麗って言って、パンケーキを美味しいって言って食べて、私がドジをすると笑ってくれるどころか、心配までしてくれます」
これは、“普通”ではありませんか───?