ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




「千隼、そんなことを言っていたの…?」


「…はい」



バカね、と。

千隼くんのお母さんは涙を流しながらも微笑んだ。



「あの子は保育園の頃にね、先生に本気で心配されたことがあったの」


「心配…?」


「ええ。“千隼くんはご飯を食べないんですか?”って」


「…食が細かったんですか?」


「ううん。家では普通に食べていたから、そんなはずありませんって返したんだけど……、
お昼の時間に先生がどんなに“食べていいんだよ”って言っても、なかなか手を付けようとしなかったんですって」



どうしてだろう?

聞いている限り、ただ食べたくないとかの理由ではない気がする。



「甘えることが…下手だったんだと思うの。誰かの前で無防備な姿を見せることが、苦手な子だったんじゃないかな千隼は」



納得してしまった。

いつも強くあろうとして、ギリギリまで人の手を借りない男の子だから。



「そんな子が、母親である私にわがままを言ってくれた。…ちゃんと甘えてくれたのね」



親不孝なんかじゃないよ、千隼くん。

親不孝な息子が母親をここまで嬉しそうな顔にできるわけがない。



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