ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
千隼くんが学校に来ないことが“当たり前”になった。
教室にいるほうが“珍しく”なった。
けれど彼の身体に実際なにが起こっているのかを知っている者は、私と先生だけ。
「千隼くん、テラス行く?あっ、そういえば8階のカフェにもうかき氷が売られてるんだって!」
「李衣、きて」
「えっ、…ベッド、ですか…?」
「ベッドです」
半身を起こす千隼くんのもとへ照れながらも移動すると、リモコンを操作してベッドが倒された。
股関節、左足、右足、次はどうなるのだろう。
ひとつずつ、ひとつずつ。
彼のなかに住みつく悪魔は、ぜったい取れない鎖で身体を縛るように固定してゆく。
「1年生のときも保健室でこんなふうにしたねっ」
「うん。…ふたりだけの世界」
ふわっと布団を被せて。
恥ずかしさだけとは言えない、ぎこちない動きが私の背中に回った。
「千隼くん、また学校で一緒にお弁当たべたいな…」
「…俺も。でもこんな身体で行ったら、クラスメイトたち引くだろうけど」
「そんなことないよ…!私もいるしっ、北條くんだっているから…!」