ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
筋力の低下と、筋肉の萎縮。
どうしたって運動機能が弱まってしまう彼の病気は、会うたびに細くなってゆく。
「いつ千隼くんが戻ってきても大丈夫なように私がしておくね」
「…ありがとう」
ずっとずっとこうしていたい。
できることなら時間を止めて、私たちだけの世界になって。
どんなところにも行ける自由な身体になって、ふたりでずっとずっと手を繋いでいたい。
「…でも李衣、そろそろ帰らないとか」
「……かえりたくない」
まだ、まだ、一緒にいたい。
つんと鼻を刺激する薬品の匂いには負けない石鹸の香りへと、わがままを押し通すように身体を寄せた。
ダメかな?
やっぱりバレちゃうかな?
こうしてベッドのなか、私はずっとずっと隠れてるの。
「いまの李衣、俺が病気でほんと助かったと思う」
「へ…?どういうこと…?」
「普通に身体が動く男子高校生に対して言ってたら、かなり危ない発言だからそれ」
「あぶない発言…?」
どうして?
私は思った気持ちを言っただけなのに。
だって帰りたくないもん。
できることなら泊まっていきたいし、逆に千隼くんをここから抜け出させる方法を考えていないことだってない。