ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「浅倉!こっちパスッ!」
「いったぞ浅倉…!!」
「ナイス!!今のめちゃくちゃ良かったわ浅倉!!」
見えない。
もう信じられないくらい、浅倉くんのことしか見えない聞こえない考えられない。
「李衣ー!ボールいったよー?」
袖は捲ることなく、ファスナーを程よく開けたジャージ姿。
その柔らかそうな黒髪にいつか触ってみたい…なんて思ってしまうこの頃。
運動できないなんて、そんなことないよ楓花。
あんなにも爽やかにグラウンドを駆け抜ける男の子、私はいまだかつて見たことがないもん。
「ちょっと李衣っ!!サッカーでそんな突っ立ってるのあんたくらいなんだけど…!?」
「……へへ、…えへへ、」
あのね、聞いて聞いて。
付き合ってるんだって、私たち。
私にはすっごく格好いい彼氏ができちゃったんだって。
「…ふふっ、きゃーーっ」
「あー、もう当たれ」
「……えっ、」
楓花の冷めきった声に、やっと取り戻した意識。
こちらへ飛んでくる丸い塊がひとつ。
あれは一体……なんだ…?