ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「これっ、うれしいんだよ…?うれしいやつだよ…?」
青石の声は、震えていた。
泣かないように顔を伏せて、ぎゅっと噛んだ唇は次第に耐えきれなくなった声を漏らす。
浅倉は何も言わずに彼女の涙を受け止めて、俺はただ、その2人をぼんやりと見つめていた。
無理だろ、こんなの。勝てるわけねーよ。
俺が入る隙は無いどころか、それすらおこがましく思ってしまうくらいだ。
青石にとっていちばんは浅倉、お前しか居ないんだよやっぱり。
「───…ある日、住宅街でバッタを逃がしてしまって泣いている男の子に出会ったことがありました」
「……え…?」
「本当は友達と映画を観に行く予定だったのですが、私は昔から困っている人を見つけると放っておけなくて。
…なので、そのときも男の子を優先させて、一緒に公園へ向かったんです」
それが泣いている青石を慰めるものだとしたら、なんて器用なんだろう。
スムーズに拭ってやれる手は持っていないからと、まったく別の方法で涙を拭き取ってしまった浅倉は。
俺からすれば、お前がいちばん保育士に向いているんじゃないかと思った。
「そこで一緒にバッタを見つけようと思ったのですが…、実は私はバッタを触ることができないという、大変なことに気づいてしまって」