ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




浅倉がなんのことを話しているのか、俺にはサッパリ分からない。

ただ目を開いて驚いている青石だけは、どこか心当たりがあるようだった。



「でも…その日は、8月7日。ラッキーセブンを信じている私は、カブトムシを見つけました。そこで泣いている男の子を笑顔にすることもできました」



そして誰よりも嬉しそうに話しているのは、浅倉なのだ。


ずっと大切にして隠していた宝物をひとつひとつ見せるように。

青石を優しく抱きしめる浅倉は、男の俺から見ても純粋に見惚れてしまいそうだった。



「映画は観れなかったけれど、男の子の笑顔を見ることができた。そちらのほうが私にとって断然嬉しかったんです」



それが私が保育士という職業に憧れを抱いた瞬間です───。


最高な志望動機だ。

青石らしい、青石らしさが詰まっている、青石にしかない志望理由。


そんなものをまさか浅倉が持っていたとは。



「そのとき…木陰にいた男子高校生のことも笑顔にしてくれて、ありがとう」


「…知らなかった…、いたの…?ずっと、見てたの……?」


「うん。あの日から俺は…李衣のことしか見えてない」



< 276 / 364 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop