ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
浅倉がなんのことを話しているのか、俺にはサッパリ分からない。
ただ目を開いて驚いている青石だけは、どこか心当たりがあるようだった。
「でも…その日は、8月7日。ラッキーセブンを信じている私は、カブトムシを見つけました。そこで泣いている男の子を笑顔にすることもできました」
そして誰よりも嬉しそうに話しているのは、浅倉なのだ。
ずっと大切にして隠していた宝物をひとつひとつ見せるように。
青石を優しく抱きしめる浅倉は、男の俺から見ても純粋に見惚れてしまいそうだった。
「映画は観れなかったけれど、男の子の笑顔を見ることができた。そちらのほうが私にとって断然嬉しかったんです」
それが私が保育士という職業に憧れを抱いた瞬間です───。
最高な志望動機だ。
青石らしい、青石らしさが詰まっている、青石にしかない志望理由。
そんなものをまさか浅倉が持っていたとは。
「そのとき…木陰にいた男子高校生のことも笑顔にしてくれて、ありがとう」
「…知らなかった…、いたの…?ずっと、見てたの……?」
「うん。あの日から俺は…李衣のことしか見えてない」