ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




「北條、去年の体育祭のこと…覚えてる?」


「…覚えてる」


「借り人競争のとき、お前はくじ引きで何を引いた?」


「………“クラスでいちばんのバカ”、だったっけ」



あれはお前に対する優しさじゃねえからな、浅倉。

お前の病気に薄々気づいていたから、あんなことをしたってわけでもない。


ただ、やっぱり俺じゃ駄目なんだって、あのときも分かってたんだよ。



「嘘でしょ」


「………」


「“クラスでいちばんのバカ”なんて。そもそも、そんなくじすら無かったはず」



それは体育委員でもない浅倉が言えたことじゃない。

あのくじを作ったのは俺だ。

だから何が書いてあるのか、ぜんぶ把握してるのも俺なんだよ。



「───“未来の嫁”」



つい動揺を隠すことができなかった。

まさか俺があのとき引いたくじの内容をズバリと当ててくるとは。



「お前が引いたのはそれだろ、北條」



そうだ、大正解だ。


俺もなんでそんなことを書いてしまったのか、自分で自分に不思議でならなかった。

しかもよりによって引いてしまうなんて想定外だったし、それが浅倉にバレていたとも。



「ゴホッ、けほっ、」


「おい浅倉…?大丈夫か…?」


「…へいき、」



< 280 / 364 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop