ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




「俺は必ず、とあるマンションに向かうんだ。そこが夢のなかの俺が帰る家なんだろうけど……ドアを開けると、ぜったい李衣がいるんだよ」



おかえり、と。

夢のなかの青石は必ず言ってくれるらしい。



「いまの李衣じゃない。もっと大人っぽくて…綺麗になってる。
そこで、そのマンションで、俺は李衣と夫婦ってより同棲?してるんだ」



そんな夢を、こいつは何度も何度も見ているんだと。


おい浅倉、ふざけんなよ。

おまえ、なんでそれを“夢”にしてんだよ。
その未来は現実でも叶えられるだろ。



「俺、もう自分が行きたい場所には行けたから…やり残したことも後悔もないと思ってた」



あるに決まってんだろ。
俺たちはまだ18歳だぞ。

これから自分の人生を好きなように生きていく、そんな年齢なんだよ。


大学、行くんじゃねーのかよ。

たとえ青石を泣かせまいとした嘘だったとしても、あれはお前の本心でもあったはずだろ。



「でも、ひとつだけあったよ。
そんな“夢”を……俺が李衣に与えてあげられないこと」



それだけが唯一の気がかりかな───。


なにも言えそうになかった。
俺は、なにも言えない。

なにが言えるって言うんだ、こんなふうに微笑む18歳を前にして。



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