ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「───ちょっと退いて」
見下ろしてくる影を掻き分ける、透き通った声。
たったそれだけでまた浮かれ気分になってしまうのだから、もうどうしようもない。
「彼氏とうじょーうっ!!ヒューーっ!」
「浅倉っ、なぜお前が青石を選んだのか未だに俺は謎すぎる!」
「オレもだ!!なぜなんだ浅倉!!」
周りの冷やかしなんかにいちいち反応すらしないのが浅倉 千隼という男だ。
ぐいっと引かれた腕、気づけば身体は起こされて、背中と髪に付着した砂を優しく払ってくれる。
「先生、青石さんは俺が保健室に運んでいきます」
「おい浅倉、」
「平気です」
運ぶ……?
私、歩けるよ……?
なにをするのかと思っていれば、浅倉くんは気にかける先生を無視するように私の身体を背中に乗せて、校舎へ戻ってゆく。
「えっ、浅倉くん…!怪我したの顔だからっ、ぜんぜん歩けるよ…!!」
「あぶないから」
「平気だよっ、ちょっと頭がぼーっとするくらいで…!」
うそ、本当はすっごくうれしい。
みんなの前であんなふうにしてくれるなんて、たとえ王様ゲームの延長だとしても彼氏として運んでくれるなんて。