ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「…大丈夫だよ」
「っ…、うん」
情けない、本当に情けない。
そう言って安心させてあげなくちゃいけないのは私のほうなのに。
どうして私が勇気づけられているの。
「ふふっ、付き合ったばかりの頃みたいだね」
体育のサッカーで。
ボールじゃなく千隼くんを追いかけて、顔面に食らっちゃって、私はみんなから笑われて。
そこに王子様が登場して、おんぶで保健室に運んでくれた。
そのとき保健室で、初めてこうしてお互いの手を合わせたの。
「李衣…、ありがとう」
「…ありがとうって、どうしたの?」
「ありがとう。…ずっと、本当に、ありがとう」
どうしてか、“ありがとう”という言葉が、“さようなら”に聞こえた。
お礼の言葉じゃなく、別れの言葉に聞こえた。
「なに言ってるの…、ここに、いるのに…」
「李衣、俺は───…」
神様、私にはこの時間があればいい。
もう他には何もいらない。
この時間が1秒でも長く続いてくれるなら、私たちはそれだけで幸せになれる。
だからお願い神様。
私たちにもう、これ以上の意地悪はしないで。