ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「おれは……、っ、ゴホッ、ごほっ…!ゴホッ…!!」
「あっ、咳…!だ、大丈夫…?」
「ゴホッ…!はっ、ゴホッ、……ゴホ…ッ!!はー…っ」
まって、大丈夫じゃない。
この咳は知らないものだ。
「千隼くん…!咳っ、どうしよう、どうしよう咳が出てる…っ」
落ち着いて、落ち着くの。
私が焦ったってどうにもならないでしょう。
そうは分かっていても、実際に苦しそうな音を聞いてしまうだけでパニックを起こしてしまう。
「はあ…っ、ゴホ…ッ!!はーー……っ、」
どうしよう、どうしよう。
泣きそうになりながらも辺りを見回すと、ナースコールの呼び出しボタンがベッド付近に用意されていた。
震える手で押そうとしたとき、ちょうど部屋の外に誰かの声が聞こえて。
「宮村さん…!千隼くんがっ…!!」
すぐに助けを呼んだ。
足早に向かってきた1人の看護師は、いつかに私の予防接種の手助けをしてくれた女性。
「大丈夫だからね浅倉くん、ゆっくり深呼吸してみようね」
「はーー……っ、はー…っ、……ッ、ゴホッ…!!」
苦しそうな咳と呼吸を繰り返す千隼くんをベッドに寝かせた宮村さんは、落ち着いて声をかけつづける。
しかし今までとは違う何かを感じ取ったのか、我を忘れたように携帯電話を取り出した。