ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「青石先生っ、浅倉くんに異常な発作が見られます、至急707号室へお願いします…!」
ここまで息苦しそうにしていることは無かった。
確かに今までも何度か咳こんではいたけれど、彼は「平気」と言っていた。
「浅倉くん、ちょっと服を脱がすよ」
駆けつけてきた主治医は聴診器を耳にはめると、すぐに千隼くんの胸元を開いた。
険しい顔をして、慌ただしさのなかでも聞こえる音に耳をすませる。
「このままICUに移動の準備だ。向こうの先生たちにも連絡を頼む」
「はい…!先生、浅倉くんの親御さんへは…」
「ああ、すぐにしてくれ」
何人もの看護師が病室を行き来してはベッドを囲んで、千隼くんに取り付けられた酸素マスク。
私はただ、理解できない難しい言葉を聞いて、離れてしまった震える手を宙に浮かせて。
呆然としたまま立ち尽くしては、目の前で起こっている光景を見ていることしかできなかった。
「青石さん、ごめんね。いろいろ困らせちゃったでしょう」
「…すみません、私がもっと早くに気づけていれば…、」
「ううん。いつも千隼の傍にいてくれて、本当にありがとう」
それからようやく落ち着いた頃、目を閉じる息子の隣で千隼くんのお母さんは力なく瞳を伏せた。