ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
隣には初めて顔を合わせたお父さんの姿も。
普通ならば緊張してしまう面構えではあるのに、今の私は落ち着いて静かに挨拶ができた。
「彼女が千隼の…?」
「そうよ、青石 李衣さん。青石先生の姪っ子さんでもあるの」
「そうなのか。いつも会いに来てくれているみたいで、ありがとうね」
両親は揃って私に柔らかい眼差しを向けた。
千隼くんが大人になったらこんな感じなのかなって、少しだけ未来の彼を見てしまったみたいだ。
「いえ…、私が千隼くんに会いたいだけなので」
もっと私らしさ全開の返事をしたかったけれど、さすがにできそうにないくらい、いっぱいいっぱいだ。
少し前、2人は主治医である叔父さんに呼ばれて何かを伝えられていて。
そこでなにを話していたんだろうって、私は気になって仕方なかった。
だって力なく微笑むお母さんの目が、赤く充血しているから。
「…またね、千隼くん」
穏やかに目を閉じている千隼くんの手をもう1度だけ握って、いつもの挨拶。
またね───そう言えば、“明日”はやってくる。
必ず、やってくる。
こうしてまた会えることを約束できる。
だから“またね”は、私たちにとって、唯一の神様のような言葉なのだ。