ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




「…俺がこうしてあげたいだけ」


「…!」



つぶやかれた声、ぎゅっと強まった腕のちから。

ふわっと頬に触れた髪から広がる石鹸の香り。



「お、お願い…しますっ」


「…はい」



肌も白くて中性的な顔立ちをしているから、そこまでガッシリしている印象はなかったのに。

やっぱり男の子なんだなあって。


諦めるんだ李衣、心臓の音は確実にバレてしまってるぞ。



「どこ当たったの?鼻血は?」


「…だいじょうぶ、」


「おでこ?」


「…うん、おでこ」



こういうときに限って保険医不在だと。

大好き、こういうラッキータイムだいすき。



「うひゃ…!」


「…冷たかった?」


「へへ、…冷たかった」



「へんな声」と柔らかく放って、私のおでこに氷袋を当ててくれる浅倉くん。


ふたりだけの保健室。

2限目、生徒たちは真面目に授業を受けてる時間だ。



「…俺のこと、見てた?」


「えっ、あっ、いや…それは、」


「ちがう?」



サラッと揺れた前髪の影から、瞳が大きい奥二重ふたつ、筋の通った形のいい鼻ひとつ、淡い着色をした薄い唇ひとつ。


浅倉くんの顔をこんなに真っ正面から見れるのって、もしかしなくても私だけだったりする…?



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