ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「ち、ちがい……ません…、見てました…!ボールじゃなくて完全に浅倉くんを追いかけてましたっ」
「…俺もおなじ」
「……え、」
「俺も青石さんを見てた」
一気に私の世界から音が消え失せる。
グラウンドから聞こえてくる声だって、流れる時間に付いてくる生活音だって。
誰かの足音、遠くから届いてくる声、そんなもの何も聞こえなくなって。
その代わり、隣に腰かけた男の子の小さく微笑む音だけはしっかり聞こえてくるのだ。
「…青石さんを運べてよかった」
「あっ、ありがとう…!すごく助かってっ、本当にありがとう…!」
「でも、もう余所見したらだめ。…俺はその度に毎回運んであげるほど優しくないから」
意地悪な顔じゃなくて、悲しい顔をした浅倉くん。
どこか胸に引っかかる表情に近づこうとすれば、私たちを阻む壁がとてつもなく大きく感じてしまった。
「じゃ、じゃあ今度は浅倉くんが転けちゃったときは私が運ぶねっ!」
本当は少しだけ不安だった。
今日は大丈夫そうだったけど楓花が言っていたとおり、彼はたまに転ぶときがあるから。