ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
価値を作るために私たちは生きているんじゃない。
私たちが過ごした時間そのものに、後付けのおまけのようにして付いてくるものが“価値”なんだと。
「おっす浅倉!」
「…ほう、じょう」
「んだよ親友の北條様が来たってのに、相変わらずな反応だなおまえ」
ひとつひとつ、今という時間、この世界に生まれ落ちたこと。
出会えたこと、お互いの時間を共有しあっていること。
そのすべてが価値ある奇跡なのだから。
きっと、いつか、なによりの財産となって私たちに降りそそぐ。
「見ろ浅倉、これヤバくね?見える?」
「…トイレット…ペーパー…?」
「そうそう、スーパーの抽選会で1年分当たっちまったんだけど!ウケんだろ?当分は困らねえから、明日20個は分けてやるわ」
「…ふっ、…いらなすぎ」
「は?おまえナメんなって。トイペは命の次に大事だろ」
ブランド物のバッグ、かわいいアクセサリー、ちょっと高いコスメ、いま流行りの服。
そんなものが色のないガラクタに見えてしまうくらい。
この時間以上に美しくて価値あるものは、きっと、どこにも存在しないのだと───。