ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
人工呼吸器と数種類の点滴だけでなく、また特殊な医療機器が追加されていた。
けれど眠っている彼は、とても意識不明だとは思えないくらいに穏やかな表情をしていて。
「青石さん、千隼のことお願いできるかな…?」
「はい。もちろんです」
交代するように、今度ベッド脇の椅子に座ったのは私。
お母さんは静かにカーテンを閉めて、場所を離れていった。
「ごめんね千隼くん、ちょっと冷たいかも…」
はーっと、かじかんだ両手に息を吹きかける。
さすがに2月下旬の夜はまだ冷え込む。
十分なくらい暖房を効かせた院内の空気に、私の手の神経はほぐれてくれなかった。
「……、」
ふと、彼と手を繋ごうとした動きが止まる。
寒さに凍えていた手のひらは、握って開く、たったそれだけの動作すら思うように動かせられなくて。
これが、千隼くんが味わいつづけている感覚なのかと思ったとき。
私の両目から無数の涙がこぼれ落ちた。
「……こわい、ね、」
そう、怖いんだ。
怖くて怖くてたまらない。
どうして動かないんだと、思うように動かせないんだと、むしゃくしゃして。
だけど今の私は一時的なものだから、まだ安心がある。