ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「好きに動けないのは…苦しい……、か」
「せんせい?」
「…そうだよね、苦しかったよね」
地面に置かれたカブトムシは、中庭に立てられた木に自力で登っていくと。
羽を広げて青空を泳ぐように飛んでゆく。
「───…りい、…せんせ、」
きゅっと、小さな手が私の手を握った。
子供は大人が考えるよりずっとずっと繊細で敏感だ。
はっと意識が戻って、心配かけさせまいと笑顔を作った私に、千明くんは5歳らしくない顔で見上げてくる。
「おれ、すきにうごける。うんどうかいでね、いちばんとるの」
だからみてて───、
似ていると思った。
どこか、なにか、感じさせるものが。
「…ふふっ、うん。あっ、お母さんのところに行かなくちゃ!」
それから一緒に歌を口ずさみながらお母さんが待つ玄関へと向かう───までは、いいんだけど。
「……千明くーん」
「こら千明。いつもいつもりい先生が困っているでしょう?明日も会えるよ?」
ぴったりと私の足にくっついては、なんとしてでも繋いだ手を離さないのが千明くん。
「りいせんせいは、おれの」
「…すみません今日も」
「あははっ、いえいえ」